オンラインノヴェル渉猟

2005 | 07 | 08 | 09 |

2005-08-05

[]『テントロック——星部長と朝子とツキムシ』

作者:Sleepdog

URLhttp://www.geocities.jp/sleepdog550/novel/tento/tento-1.html

ホームページhttp://www.geocities.jp/sleepdog550/

今週は取り上げたいと思うような面白い小説に出会わなかった。また今日も私は用事があって外出しなければならないので、以前私のはてなダイアリーで紹介した作品を使い回すことにする。たぶんほとんどの人が読んでいないだろうし。

奇妙な味わいのサラリーマン小説。「星部長」という登場人物を、視点人物の「朝子」が、「ほしぶどう」との地口を面白がって「ファン」になることで、退屈な出勤(仕事)を何とか楽しいものに変換している、という状況から小説ははじまる。そのちょっとした「秘密上司の名前を地口にして愉快がっていること)」を抱えながらの「星部長」と「朝子」の会話は、当然二重化された意味を帯びることで滑稽なものとなり、ごく素直にこの小説コメディタッチにしているのだが、その地口から想像が発展して「星部長」の瞳が干しぶどうに見えてしまう、というイメージが具体的に記述されるあたりから、すでにその作品世界にはある種の「不穏さ」が漂っている。その「不穏さ」は、出勤ラッシュの駅のホームで「ツキムシ」なる怪物に「朝子」が遭遇するシーンから、インターネットで「ツキムシ」が「突き虫」であると判明する馬鹿馬鹿しいような地口によって、この作品のコメディタッチと融合した一種独特のカラー(個性といってもいいかもしれない)になるのだった。つまり地口的想像力とでもいうのか、言葉の表層の戯れが、この作品を統べる規則であって、だから「星部長」のフルネームが「星一得(=星行っとく?)」であると語られ、その隠れたロマンティックな性向が予想されるのだし、物語の後半で「ツキムシ」ならぬ「ヒキムシ」が登場したりするのだろう。まずそこらへんのトーンがとても面白かった。作者氏には是非百鬼園先生やレーモン・ルーセルを目指していただきたい。また、物語の展開としても、中盤の「星部長」を探る「朝子」の思考を辿り、きちんと伏線を張って「屋上」のシーンに繋ぐあたりのサスペンスに引き込まれるし、作品タイトルにもなっている「テントロック」の描写も、その後の「星部長」の奮闘ぶりもオフビートのおかしみがある。少し大袈裟な誉め方をするなら「ツキムシ」はオドラデクのようだし「テントロック」は流刑地の機械のようだ。しかもこの作品は希望に満ちた終わり方をするのだ(もちろんラストも規則は貫徹される)。物語のモチーフとしては「お気に入りの上司の意外な素顔」とでもいったサザエさん的なテーマのごくごく平凡なお話なのだが、地口的想像力という個性が発揮されたことによってとてもいい作品に仕上がっていると思う。前半のTVに関連した描写の中途半端マニアックさのセンスといい、Webでしか読めない種類の作品ということも含めてオススメの一作である。