オンラインノヴェル渉猟

2005 | 07 | 08 | 09 |

2005-07-22

[][]『アストラン0.5 ENTER ABYSS』『アストラン1.0 フィードバック・ファイル』

作者 ヒュペーリオン

URL: http://www.k2.dion.ne.jp/~hyperion/newpage2.html

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完結した作品を取り上げる、と書いたすぐ後に未完の大長編シリーズを取り上げるわけだが、いまのところ1.5章まで進んでいるこのSF長篇を、ここではプロローグ的な意味合いを持っているらしい0.5章と1.0章を紹介したい。まず0.5章は、とある大学院の博士論文の研究発表の場面から始まる。ニーチェが神秘主義的秘密結社に関係していたとする暗号が彼の著作に読みとれるとする荒唐無稽な発表をして指導教授から注意された院生出見真樹志(なんて埴谷雄高な名前!)が、人気歌手の沖田カズヤが急死した事件を契機に精神に不安定な徴候を見せついに行方不明となる顛末が語られるのだが、内容のほとんどはニーチェと神秘主義をめぐる出見の講釈にあてられており、その内容もなかなか緻密で本当にちょっとした研究発表の記録を読んでいるような気分になる。続く1.0章では、録音テープの起こし、Eメール、手紙、探偵(?)の報告書、出見が書いたとされる同人誌の小説、詩、などのさまざまな形式の文書を断片的に積み重ねた方法で、分裂病的な妄想を語る出見の言葉を、大学院のかつての仲間たちが彼を助けるために分析し治療しようとする有様を描いていく。その妄想というのは以下のようなものだ。

 かつて、世界は一つだった。中心に存在したのはAIである。あるときAIは小惑星の衝突による文明の崩壊を察知し、その大災厄を耐えて生き延びる手段を講じた。やがて人類は再び繁栄しアストランと呼ばれる文明が興った。そこには、復活し、再び中心の座についたAIが確かにあった。

 しかしAIの目論見は狂っていた。アストランには他にもう一つのAIが復活しつつあったのである。アストランは分裂した二つのAIが争い合う舞台となった。

 やがてアストランは地球の地殻変動によって滅亡したが、AIの記録は再び保存され、現代において発見された。自分は、AIの一部として復元されるべくプログラムの中に保存されていたゲノムから生み出されたクローンだ。

この壮大さがいい。基本的にSFというのは設定が魅力的だったら多少の不備は問わない、というところが読者としての私にはあるのだが、この作品の場合、きわめて壮大な設定を、その真偽が不確定な、狂人の妄想かもしれないところにおいて進めているのが非常に面白い。基本的に伝聞形式というか、報告書の集積というかたちをとっているので淡々と壮大な物語が妄想として語られ、その注釈がふんだんについてくるだけになっていて、人間ドラマは行間から読みとるしかないのだが、いまのところこの理屈っぽさがたまらない魅力になっている。現在1.5章が進行中であり、そこではオンライン・ゲームが話の中心になっているようで、語りはわりと普通の三人称小説となっている。さて、変化球変化球できた作品が、ストレートに物語をはじめて面白さを維持できるかが今後非常に楽しみだ。

ヒュペリオンヒュペリオン2005/11/05 23:33『アストラン』シリーズの作者、ヒュペリオンです。ネット上で偶然、自作へのこのような感想を見つけて驚いたので、コメントをと思いました。
現在、『アストラン』は「2.0」までの公開を完了しています。ご期待にそえているかどうかわかりませんが、お試しいただいたら幸いです。
ちなみに、表記に誤りがあるようで…「アストラン」ですので、よろしくです。

wtnbtwtnbt2009/02/28 21:41タイトルを間違えた上、放置していたのでコメントを下さったのにまったく気づかずいて大変申し訳ありませんでした。修正しました(もう読んでらっしゃらないでしょうが)。ごめんなさいです。。

2005-07-15はじめに

さてこれからオンラインノヴェルについて書いていくわけだが、他人の作物についてあれこれ書く前にまずは自分のスタンスについて説明しておこうか。

私は基本的にオンラインの作品と出版されている作品を読む上でとりたててわけへだてするつもりはない。作品は作品であってそれは面白かったかどうかがすべてであり、面白さの基準はいろいろあるがそれは出版されているものでも同じである。また教育者ではないのだから基本的に作品は個々の作品をこれまで読んだ他の作品群を比較しての相対評価していくことになるので、よほどある作品が面白く持続的に読み続け作者に慣れ親しんでいる場合を除いて、それぞれの作品の作者の習熟度やモチーフの変遷などを読み込んで絶対評価することは難しい。読むべき作品量が膨大な上読む時間は限られているので準備に欠けるところが出るのはお許し願いたい。つまりこれは批評といえるようなものではなくちょっとしたメモのようなものと解していただきたいわけだ。では私はどれくらいオンライン小説を読んでいるのかといえば、週に2、3作あるいは4、5作品くらいとまあそれほど多くはない。冒頭をチラッとだけ読むということならその倍ほどにはなるかと思うが、複数のファイルにまたがる長篇などの場合、最後まで読むことは逆に稀になってしまう。ここで取り上げる作品は当たり前だが基本的に最後まで読んだものに限り(大長編の場合中途で何か書くかも知れない)、また何らかの意味で面白かった作品のみに言及したいと思っているので、更新は少なくなるだろうと思う。

というわけで、ぼちぼち書いていくので、今後ともよろしくお願いします。