オンラインノヴェル渉猟

2005 | 07 | 08 | 09 |

2005-08-01

[]『ニート

作者:絲山秋子

URL: http://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/short33/short01_33.html

ホームページhttp://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/9882/

このブログは毎週金曜日更新しようと考えていたのだが、先週は用事があって書く時間が取れなかった。やはりどうも不定期更新になってしまうようで、読んでくれている人には長い目で見て下さいと重ねてお願いします。

さて「はじめに」でも書いたが私は基本的に職業作家趣味作家とを分け隔てするつもりはないので、インターネット初出の小説で面白いと私が思った作品であればどんどん取り上げていく。というわけで今回は第96回文學界新人賞を作品『イッツ・オンリー・トーク』で受賞後、川端康成文学賞(『袋小路の男』)、芸術選奨文部科学大臣新人賞(『海の仙人』)と順調にキャリアを重ねている作家絲山秋子氏が、紀伊國屋書店のオンライン雑誌IfeelNo.332005summerに掲載した掌編を取り上げることにする。

私が絲山秋子氏を知ったのは氏がデビューする以前、ホームページを立ち上げて創作についていろいろ語っていた頃で、その天才宣言には、同じように世間的に認知されるあてもなくただ情熱だけで小説を書きつつある者として共感させられたりもしたものだった。

掌編小説ニート』は、絲山氏本人を想起させる「私」が、ひきこもりニートの「キミ」の生活が困窮しているのを知って、動揺し躊躇しながらも、関係が変容するのを覚悟して金銭的援助を申し出て、それを強引に受けさせる、というただそれだけの話である。それだけの話なのだが、作家という何の安定もない仕事を営む「私」が、世間的に現在は認知されてはいるのだが本質的に「生きにくい」存在であることをつねに意識せずにはいられない状況を生きつつあり、そして世間的には認知されにくい「ニート」という「生きにくさ」を生きている「キミ」と、金銭という非対称性を超えて連帯しようとする行為を、あやういが妙に絶望的な明るさをともなって描いていて、ここには「作品を書く」ことの一種の希望のようなものが描かれているように思えた。絲山氏の作品は「巧い」と評されることが多いし、実際非常に滑らかな語り口で非常に巧みなのだが、しかしその作品の基底には、つねにこのような「生きにくさ」を抱える者たちへの共感と連帯への意志が貫かれていて、それがどれだけ絶望的な断絶をはらんだ関係を扱っていてもそこに透明な明るさ、希望のようなものを感じさせる要因となっているのだと思う。

ゲスト



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